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東京地方裁判所 昭和44年(行ウ)75号 判決 1970年1月27日

原告 関田歌子 外三名

被告 府中市長

主文

被告が原告らに対し昭和四三年六月二九日付納税通知書をもつてなした別紙目録記載の不動産に対する別表記載の固定資産税及び都市計画税の賦課処分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

(原告ら)

主文同旨の判決を求めた。

(被告)

「原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求めた。

第二原告ら主張の請求の原因

一、被告は原告らが後記各税目の昭和三九年ないし昭和四三年度の各賦課期日(その年度の初日の属する年の一月一日)において別紙目録記載の不動産(山林)につき、登記簿上、共有者として登載されていたことを根拠として、原告らに対し、昭和四三年六月二九日付納税通知書をもつて、別表記載の固定資産税及び都市計画税の賦課処分をした。

原告らは、これを不服として同年七月二四日被告に対し異議の申立てをしたが、被告は、昭和四四年一月三一日付で右申立てを棄却する旨の決定をなし、同年二月三日原告らにこれを通知した。

二、しかしながら、前記課税処分は、法令の解釈を誤つてなされた瑕疵を有し、違法である。

すなわち、

(一)  前記山林は、終戦前から関田孝の所有であつたが、昭和三八年三月二七日同人が死亡して相続が開始し、その相続人たる原告らの共有に帰し(その持分の割合は、原告関田歌子が九分の三、その余の原告らが各九分の二)、前記各地方税の賦課期日において、その登記簿上、原告らを共有者とする登記が存したものである。

(二)  ところが、国は、終戦後、アメリカ合衆国(以下、単に合衆国ともいう。)との間の相互協力及び安全保障条約に基づく、義務の履行として、右山林を在日合衆国軍隊に使用させるため、合衆国に提供し、今日にいたつたから、右山林は、地方税法三四八条二項一号及び七〇二条の二の二項にいわゆる「国が公用に供する固定資産」に該当し、これに対しては固定資産税及び都市計画税を課することができない。

従つて、被告が右山林をもつて国の公用に供する固定資産にあたらないとしてなした右課税処分は地方税法の解釈を誤つたものといわなければならない。

第三被告の答弁

一、前掲請求原因の一の事実、二の(一)の事実及び二の(二)のうち、国が原告ら主張の条約上の義務の履行として原告ら主張の山林を原告ら主張の目的でアメリカ合衆国に提供し今日にいたつた事実は認める。

二、原告ら主張の法律上の見解は、失当である。すなわち、地方税法三四八条二項一号にいわゆる「国が公用に供する固定資産」とは、国がその事務または事業を執行するため直接使用することを本来の目的とする固定資産税を指すのであつて、前記山林のように合衆国軍隊が直接使用し、国その他地方税法三四八条二項一号所定の団体等が直接その事務または事業の用に供していない固定資産を含まない。そして、このことは、国が右山林を合衆国軍隊に使用させるについて、合衆国との間に、いかなる契約その他いかなる縁由が存在しても左右されるものではない(昭和三四年三月三日法制局一発第九号「提供財産の国有財産法上の取扱いに関する疑義について」の回答参照)。

三、以上の次第で、被告のなした本件課税処分には、なんら違法がない。

第四証拠<省略>

理由

一  別紙目録記載の山林が終戦前から関田孝の所有であつたところ、昭和三八年三月二七日同人の死亡により相続が開始し、その相続人たる原告らの共有に帰し、後記各税目の昭和三九年ないし昭和四三年度の賦課期日(その年度の初日の属する年の一月一日)において、登記簿上、原告らを共有者とする登記が存したこと、被告がこれに基づき原告らに対し昭和四三年六月二九日付納税通知書をもつて別表記載の固定資産税及び都市計画税の賦課処分をしたこと、原告らが、その主張の日これに対する異議申立をなし、右申立棄却の決定をされ、その通知を受けたこと、ところが、国が終戦後、アメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約に基づく義務の履行として、右山林を在日合衆国軍隊に使用させるため合衆国に提供して今日にいたつたことは当事者間に争いがない。

二  そこで、右課税処分の適否について判断する。

地方税法三四八条二項一号は、国その他所定の公共団体が公用または公共の用に供する一般人の固定資産に対しては、原則として国または公共団体が有料で借り受けている場合を除いて、固定資産税を課することができない旨を規定するが、それは、固定資産をかように公の目的に使用する一方、担税力のない状態においたまま、これに対し固定資産税を課したのでは、元来その所有に担税力を見込み、これを基礎として成り立つている固定資産税の制度上好ましくないという政策的考慮によるものと解される。そして、さような理解に立てば、右に国が公用に供する固定資産とは、必らずしも、国が自ら執行すべき業務に直接使用するものに限らず、国が他に使用させている固定資産でも、その用途が一定の公の目的のためであつて、もし、これに対し固定資産税を課したならば、公用物の場合に比して著しく衡平を失すると認められるものを含むと解するのが相当である。

これを本件についてみると、国が原告ら所有の前記山林をアメリカ合衆国軍隊に使用させるため合衆国に提供しているのは、公共の用に供しているものといえないのは勿論、直接公用に供しているものともいいがたいが、前記条約六条一項に基づく国際公法上の義務を履行して憲法九八条二項の要請を充すとともに、国家の安全等に寄与するという特定の公の目的に供し、そのため右条約六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定三条一項により合衆国に特別の管理を許容し、その限度で私法の適用を排除しているものというべきであるから、右山林は、少くとも、固定資産税の非課税範囲に属すべき要因の存否に関する限り、公用物との間に本質的な差異がなく、むしろ、もしこれを別異に取扱うならば、著しく衡平を缺くものがあるといわざるをえない。そして、国が右山林をかように使用するため原告らから有料で借り受けたことについては、なんら主張立証がないから、右山林は、当時、地方税法三四八条二項一号の非課税資産に該当するものであつたと解するのを相当とする。

次に、地方税法七〇二条の二の二項は、同法三四八条二項一号の規定により固定資産税を課することができない土地または家屋に対しては、都市計画税を課することができない旨を規定しているが、それは、都市計画税の制度が土地家屋の所有に担税能力を見込み、これを基礎として成り立つていることからして、固定資産税制度の場合と同一の政策的考慮によるものと解されるから、都市計画税についての非課税の範囲も固定資産税についてのそれと同一に取扱うのが妥当である。従つて、原告ら所有の右山林は、当時、同法七〇二条の二の二項の非課税資産に該当するものでもあつたといつて妨げない。

そうだとすれば、被告が右山林を固定資産税及び都市計画税の課税物件としてなした本件各課税処分は、地方税法の解釈を誤つた結果、非課税資産に対してなされた瑕疵を有し、違法というべきである。

三  よつて、その取消しを求める原告らの本訴請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 駒田駿太郎 小木曾競 山下薫)

(別表、目録省略)

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